新規事業と採用
20人くらいの小さな会社なのに、今月だけで6人の新人を採用しました。
しかもこれは事業拡大のための増員ではなく、新規事業を立ち上げるためだったのですが、採用したのがみんな新人だらけです。
嫌な予感がします。
前の会社では、新規事業を立ち上げ、そのために人を採用し続けた結果、最悪の結末を迎えました。
その時の事を思い出していこうと思います。
失敗した新規事業
前の会社では事業内容のほとんどは主に開発案件がメインだったのですが、
中国の海外事業を得意としていた取締役が新たな事業を立ち上げたのです。その事業内容は
「日本企業がドバイに進出するのをお手伝いする」
というものでした。
ドバイには世界中からお金と仕事が集まってきます。
そんなドバイで稼ぐお金をドバイマネーと呼んだりもしますが、それを狙っての事業だったのでしょうか。
しかし
・ドバイマネーを狙ってドバイに進出する。
・ドバイに進出するのを手伝う。
なんて仕事は昔からあります。
すでに存在していて飽和状態の業界に、後から参入してどれほどの勝算があったでしょうか。
他の会社には真似できない革新的な手法でもない限り、後続者が先駆者に競争で勝つなんて出来ないのです。
そして思った通り、この事業は何の結果も残せないまま、たったの1年半で潰れてしまったのです。
ドバイは非常に物価の高い国です。
ドバイへの渡航費、ドバイでの滞在費には膨大なお金を消費します。
ドバイ事業は何の結果も出せずに赤字を垂れ流し続けた結果、会社の予算を使い切る程にお金を使い込んでしまいました。
それがたったの1年半という短命で終わった原因です。
しかし悲惨な事は事業を辞めた後もさらに続きました。
このドバイ事業部も、会社本来の事業設立プロセスを踏まずに、取締役主導でどんどん進められていったものです。
このドバイ事業のためだけの人材を新しく正社員で雇い続けました、最終的に10人ほど雇ったでしょうか。
しかしこの雇った人達は誰も結果を出す事が出来ずに、そしてその事業はなくなってしまいました。
そしてこの人達が活躍出来る他の事業部はこの会社には存在しなかったのです。
しかし契約社員ではなく、正社員として採用してしまった以上、事業が失敗したという理由で簡単にクビにするわけにはいきません。
ここからが地獄絵図でした。
とりあえずその人達は、人事や総務などの仕事を手伝わせる事から始める事で、なんとか解雇をせずに凌ごうとしました。
しかしドバイ事業をするつもりで入社してきた人達の内心はどうだったでしょうか。
やりたい仕事も出来なくなり、やりたくもない仕事で働かされ続ける。
そんなストレスに耐えきれなくなり、心を病んでとうとう出社出来なくなった人も出ました。
そうしてドバイ事業のために雇った人達は全員、自主的に会社を辞めていくという結末を迎えてしまったのです。
せめて「退職金を出すから、これで他の会社に行ってくれ」と言った方がよほど清い対応だったのではないでしょうか。
しかし戦力外になった人達を、「解雇した」という悪いイメージがつく事を回避しながら放置し続けた結果がこの悲劇を招いたのです。
失敗の原因
このドバイ事業の採用計画に、私は2つの過ちがあると考察します。
まず1つは事業を成功させるための正解を知っている人が採用する方にも採用した方にもいなかったという事です。
前述の通り、昔からある事業に後から参入して競争に勝つには、勝つ方法を知っていなければいけません。
しかし事業が失敗したという事はつまり誰もその正解を知らなかったという事なのです。
事業を進める人が正解を知っているのなら、採用した部下にそれを教育すればいいです。
事業を進める人が正解を知らないのであれば、正解を知っている人を雇って、自由に働いてもらえばいいのです。
しかし正解を知らない人が正解を知らない人を雇って、全員で手探りで始めるなんて事をしていて、競争で勝てるわけがありませんよね。
もう1つは最初から大きく始めすぎたという事です。
スモールスタートという言葉があります。
これは新しい事を始める時に、まずは小さくスタートして、それで成功したら少しずつ大きくしていくという手法の事です。
この方法であれば、失敗して辞める時の損失が少なくてすむのです。
まずは3人ほど採用して、うまく事業が回るようになったらまた3人ほど採用して・・・という事を続ければ良かったのです。
しかし何の結果も出せていないのに人を採用し続けた結果が、巨額な赤字を垂れ流し続けた最大の要因なのです。
会社はこのドバイ事業を目玉事業にしようとして勝負に出ましたが、失敗に終わりました。
そしてこの赤字は会社の既存の事業にも大きな影響を及ぼし、会社に失望した大量の退職者を出す事になったのです。
デジャブ
新しく転職したこの会社では、今年コロナ渦の影響で業績が低迷し、倒産の危機を迎えました。
倒産を免れるために何人かを解雇、または減給する可能性すらもありました。
夏の賞与もほとんど出ませんでした、それは状況からして当然の事です。
しかしつい最近までお金がなかったのに、新人を大量に採用したので、
いつの間にそんなに会社のお金が増えたんだ?
と不思議になりました。
そして会社の弱い部分を補強するための採用ではなく、新規事業のためだからというから驚きです。
その新規事業とやらはいつから黒字運営する計画なのでしょうか?逆に言えばいつまで赤字運営で耐えるつもりでしょう?
この会社でも新規事業を始め、何の結果も残せず、
「お金がなくなった、倒産の危機だ」
とか言い出したらまさに前の会社と同じデジャブです。
それが現実になった時、この会社も辞めるかもしれません。