お金が欲しい=「上場しよう」
前の会社では長年にわたって「上場する」詐欺が行われてきました。
「上場する」詐欺とは、会社の内外に「自分達には上場する価値がある」「上場するつもりである」と言いふらし、事を有利に進めようとする事です。
一歩間違えればインサイダー取引法で逮捕になるのではないかという案件です。
事の発端は資金繰りにありました。
例えば何かを生み出すためにはどうしても人・物・金が必要になります。
しかし人も物もお金で調達出来る事ですから、つまりはお金があれば解決するのです。
そのための方法として会社が考えたのが、上場する事によって投資家から資金を調達するという方法でした。
会社はさっそく上場するための手続きに入りました。
しかし、この上場する事によって資金を調達するという案はいくつかの矛盾と課題を孕んでいる事に気がつきます。
そもそもの資金を調達する事の目的が「新しい事に挑戦するための資金」だという事を思い出せば、それが見えてきます。
まず、上場するためには最低でも2年の年月が必要になります。
上場するに値する会社かどうかの審査期間があるからです。
業績が順調かどうかは言うまでもなく、セキュリティが万全かどうか、緊急時の体制は大丈夫かなどを審査され、指摘があれば修正したりするなど、いろんな準備が必要なのです。
お金を手に入れる事が目的なのに、外部の監査会社と契約したり、法律事務所と提携したりと、支出が増える一方です。
早くお金を手に入れたいのに、2年間もの業績の審査があり、つまり最低でも2年は必要になります。
この間に業績不振に陥ってはいけません、好調をキープし続けなければならないのです。
審査期間中に業績が悪い時期が続くと、また審査期間がリセットされます。
ですから成長著しい会社でなければ上場は難しいのです。
この会社は成長著しい会社ではありませんでした。
ロボット事業という目玉事業はありましたが、会社全体としては不調でした。
ですから何年経っても上場しそうな気配はありませんでした。
上場する事の意味
「もしも上場したらどんな会社にしたいか?」
みたいなブレスト会が全社的に行われた事もありました。
しかし「上場する」という事についてまだよく分からない新人達は「お金が入ってリッチになる」というイメージしかなく、
「大きなオフィスに引っ越ししたい」
「福利厚生を増やして欲しい」
「賞与を増やして欲しい」
など、自分達の願望ばかりを述べました。
しかし上場したとしても、投資家から得たお金は自由に使えるものではないという事を知らなければなりません。
投資家達はお金をくれる訳ではありません。
「そのお金を元手にして2倍にも3倍にもして返して欲しい」
と、それが出来そうな企業へ投資するのです。
ですから投資を受けた方はそのお金の使い道について、計画を練り、そして結果を報告する義務があります、それが株主総会などです。
例えばロボット事業を目玉として投資を受ける場合には、基本的にそのお金はロボット事業にしか使ってはいけません、
投資家は「ロボット事業で成功してくれ」と投資してくれるのですから。
例えばそのお金を、何の結果も出していないのに、いきなり社員への賞与に当てたら投資家はどう思うでしょう?
「その社員はちゃんと結果を出すヤツなのか?」
「最初にマイナスを作って、ここからちゃんと巻き返してプラスになるのか?」
と不安になりますよね。
不安要素があると投資家は投資してくれなくなりますから、だから計画と報告が必要不可欠なのです。
投資金を元手にお金が儲かったとしても、まだそのお金も自由に使う事が出来ません。
利益の一部を投資家に還元しなければならないからです。
投資を受けるという事は、結局借金を元金と利息を返すのと同じように、投資家へ利益の一部を返していくのです、それが配当金や株主優待のようなものです。
ちなみに上場し続けるだけでも毎月数十万円の手数料が摂取されていきます。
そうやって支出するべきところに支出し終えて、最後に手元に残ったお金が自由に使っていいお金になるのです。
一体どれだけのお金を残せるでしょうか?
自由に使えるお金を得るためにどれだけの時間が必要でしょうか?
新しい事をスピードを持って始めるためにまとまったお金が必要だと言っているのに、これではやろうとしている事が矛盾している事が分かります。
社員へのメリットがない
また、上場する事による社員への直接的なメリットはありませんでした、例えば持ち株制度(ストックオプション)のようなものです。
社株の一部を切り出して、社員に少しずつ株を購入させるのが持ち株制度です。
会社の価値が上がれば、社員1人1人が持っている株も値段が上がるので、仕事へのモチベーションアップに繋がる事がこの制度のメリットです。
値段が上がったところで売れば、まとまったお金を手にする事が出来ます。
しかしそういったメリットを導入する予定もなく、上場してからは
「上場廃止にならないように、死に物狂いで働け!」
というプレッシャーをかけ続ける経営をするつもりだったのでしょう。
上場する事が正解というわけではない
会社を経営する=上場する、上場を目指すという事が必ずしも正解というわけではありません。
確かに上場に成功すれば、知名度が上り、ビジネスのチャンスが増え、投資家から莫大なお金を手に入れる事が出来るかもしれません。
しかし上場までに手続きが非常に面倒な事や、上場に成功しても上場廃止にならないようにというプレッシャーとの戦いが始まります。
そして何より、自分達の為でなく、投資をしてくれた投資家の為に働かなくてはいけなくなるという事を忘れてはいけません。
こういったしがらみが面倒で嫌いだという会社はあまり上場しようとしません。むしろ
「投資家にお金を返すとか面倒だ」
「俺達の稼いだお金は俺達が自由に使う」
という思想で、会社の利益は社内でどんどんお金を回そうとします。
今の時代、助成金への申請や、クラウドファンディングなど、お金を集めるための手段はたくさんあります。
「お金を得る方法=上場する」という発想しかないのは考えが古いです。