土曜日通常出社で別途給料が出ない部署
これは前の会社で、私が入社した時に実際にあった出来事です。
入社すると普通は自分の能力に見合った部署に配属されるものですが、前の会社ではその逆で、自分で入りたい部署を決める事ができるという制度がありました。
各部署の部長が自分の部のプレゼンをして、それを聞いた新入社員は入りたい部署に希望を出し、そこが新しい人員の受け入れが可能であれば配属が成立するというものでした。
新卒も中途も関係なく行われており、ちょっとしたドラフト会議のようなものです。
私も例外なく、すべての部署のプレゼンを聞いてから1つの部署を選択しました。
プレゼンを聞き終わって、その中ですぐに候補から除外した部署があります、それが【土曜日通常出社の部】でした。
正確には土日休みの会社で土曜日に通常出社しても別途給料が出ない部です。
他の部署はみんな土曜日休みなのに、その部署だけは土曜日も出社で、しかも給料が出ないのです。
私は疑問に思ってその部長に「土曜日出勤の給料は出ないのか?」と質問してみたところ、
「土曜日も給料出さないといけないよなぁ、そうしようと思ってる」
という回答が返ってきて驚きました、もう完全にアウトですよね。誰がそんな部署入るんだ!
今はもうその部署はなくなってしまいましたが、当時どうしてそんな事がまかり通っていたのかを振り返っていきたいと思います。
自社サービスを作りたい会社の理想と現実
理想
起業したり、新しい部署を作る動機の多くは自社サービスを作ってそれで儲けたい事にあります。
新しい事業を作る時はまず事業計画を作りますが、よくあるパターンは3ヶ年計画です。
1年目:サービスを作る(赤字)
2年目:サービスの運用を開始する(まだ赤字)
3年目:サービスでの利益が黒字に転換する
この予定通りに順調にいけばいいですが、しかしみんながすべてこのパターンで成功するとは限りません、失敗すれば借金を抱えて終わりです。
早く新しいものを作りたい
社員に給料を払わなければいけない
だけど借金経営もしたくない
それが自社サービスを作りたい会社の本音です。
現実
そこで借金経営をせずに自社サービスを作るために多くの会社がやっているのが受託開発やエンジニアリングサービス(要するに派遣)です。
本当はやりたくない、やりたい事だけをやっていたいけど、会社を借金経営させないためにまずは稼ぐという事をベースにおき、その稼いだお金を社員の給料と新規事業への投資に使います。
ではその新サービスはいつ作るんだというと、お客様の仕事がない隙間時間でやっていくという事になるのです。
しかしこれはなんとか無借金経営は出来るけど、新サービスを作るスピードは格段に落ちるというのがデメリットになります。
実質的に業務時間外で作るしかない
昼はクライアントの仕事で手一杯、しかしサービスも早く出さないとライバル会社に先を越されてしまう。
よって結局時間外の残業時間で作るしかないという結論に至るのです。
しかし残業時間に工数を付けてしまうと昼間の仕事の1.25倍、休日に工数を付けてしまうと平日の1.35倍のコストがかかってしまい、それをやり過ぎるとせっかく昼間にやりたくもない仕事で頑張って稼いだ利益をすぐに食いつぶしてしまいます。
そしてそこから生まれるのが「給料いらないからとにかく作りたいものを作る」というサービス残業の精神です。
サービス残業の精神に繋げるおかしな制度の数々
サービス残業は普通に考えたらやってはいけない事だと分かりますが、まるでそれをやるように誘導するようなおかしな制度がいくつかあったのです。
土曜日の稼働は休日計算ではなく残業計算
前の会社は土日祝日が休日の会社だったので、その日に出社して作業した場合は給与計算時に休日計算をしなければなりません。
月給を時給に換算して、それに休日出勤係数(1.35倍)を掛けたものが休日出勤の給与計算です。
しかし土曜日だけは残業係数(1.25倍)で計算するようにしていました。
土曜日に出社した分を平日に振替るルールなどは日曜日と同じですが、給料の計算だけが土曜日と日曜日で異なりました。
実はこれは会社の制度の問題ではなく法律で定められたルールで、
土日が休みでも会社が定めた法定休日は1週間で1日(通常は日曜日)で、その日の出勤は休日出勤係数(1.35倍)で計算しなければなりませんが、それ以外の休日の係数は1.25倍で計算する事になっているのです。
通常残業と土曜出勤の時給の計算式が同じ1.25倍、これが「土曜日は休日ではなく残業時間」という間違った意識付けへと繋がるのです。
朝礼の工数の付け先がない
1日8時間労働だったとして、その8時間を何の作業に使ったかを集計する必要があります。
そうする事でどのプロジェクトが赤字でどのプロジェクトが黒字なのかを把握する必要があるからです。
雑務なら雑務で時間を使ったと集計しておかないと、サボっていたのか疑われてしまいます。
さて、前の会社では毎日朝礼があったのですが、15分くらいと結構長い時間をかけてやってました。
しかしそんな長い時間の朝礼をやっているにも関わらず、その朝礼の工数の付け先がありませんでした。
つまり朝礼をやった事になっていない、もしくは朝礼に使った時間を他の作業の工数にまぶしてあるという事なのです。
正しい1日480分の工数の付け方は朝礼15分と通常業務465分とならなければいけません。
たかが朝礼であろうとも「数字上やっていない事にしている」という事実を作っている事に変わりありません。
そして朝礼は毎日行われているわけですから、その「数字上やっていない事にしている」行為が社員一人一人に習慣化されていて染み付いているのです。
それがサービス残業をやってはいけないという意識を低下させる事に繋がっていくわけです。
合宿費用は出ない
技術の向上と、メンバーとの親睦を深めるために、時々合宿のようなものが開催されていましたが、会社公式のイベントではないため、会社からは1円も出ません。
全額参加者の自腹です。
一時期「勉強にかかる費用を会社が補助して欲しい」という声が上がった事もありましたが
「それで結果が出なかったらどうするんだ?結果を出してから言え」
の一言で一蹴されてしまいました。
カンパニー制の導入
この会社ではカンパニー制を導入していて、部署単位に独立採算の権限を与えています。
つまり部の人員をどう使うかや、部で稼いだお金を何にどう使うかは部長にある程度の権限が与えられているのです。
しかしこれを部長が勘違いした結果が「部長権限で土曜日出社」(給料は出ない)で、そして最も問題なのがそれを部署として運営を許していた会社なのです。
歪んだ精神論と歪んだ制度が歪んだものを生み出す
毎日の朝礼などでも自分を犠牲にして会社に尽くす精神論を語るなど、社員をほんのわずかでもタダ働きの方向に持っていこうと精神誘導します。
そしてそれを助けるための前述のような歪んだ制度がいくつも設けられていたのです。
「やりたい事があるならまずやってから言え」
「結果を出してから言え」
という理屈は分かりますが、しかしそれは
「結果が出るまでタダ働きしろ」
と言ってるようなものなのです。求人には
「経験が浅くてもチャレンジ出来る環境があります」
などとありきたりな事を記載していますが、その実態はこういうものです。
求人票だけでそこを見抜く事は出来ません、心配だと思う事は面接の時に徹底的に質問するしかありません。
もちろん面接でも見抜けない事はありますが、入社した後のプロセスが描けるかどうか、不安を取り除く事が大事です。
新卒や転職経験の浅い人は特に精神誘導に引っかかりやすいので、ブラック企業に飲み込まれないように気をつけていただきたいと思います。